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無理 [本]

奥田英朗の描く人物は、とても人間くさいと思う。
全くの善人、逆に悪人という人はほとんどいない。
善人だけど、どこか黒い部分を持っていたり、暴力的でちょっと手に負えない感じがする人物でも、どこか憎めない部分があったり。
本作も、そうした人々が、それぞれの生活の中でもがいて、それでもどうにか自分の思う理想の生活に向けて生きていこうとする姿が描かれる。

舞台は、ゆめのというある地方の町。
県庁から出向して、町の社会福祉事務所に所属し、自分勝手な生活保護受給者たちに翻弄される友則。
ゆめのの町から逃れるために受験勉強に励む、東京に憧れる女子高生、史恵。
元暴走族で、現在は詐欺まがいの営業仕事に精を出す裕也。
子供たちは独立して、熟年離婚後、契約社員として警備員の仕事しながら、新興宗教にはまっていく妙子。
二世議員として、市議会議員をつとめ、地元業者と地元有力者に挟まれつつ、ちゃっかり愛人との逢瀬を楽しんでいる順一。
そんな彼らが、いまいち活気がないゆめの中で、さまざまな事件に巻き込まれていく。

関東近郊に住んでいても、少し中心部から離れると、こういう町に出会う。
最近の傾向なのか、大きなショッピングモールが唐突に建っていて、その周りのお店や、昔はその町の中心であったろうと思われる商店街などは、シャッターがおりている、という風景だ。
実際に自分が住んだことはないので、実感としてはないのだが、昔ながらのご近所付き合いだったり人情だったりが薄くなり、中途半端に効率がもとめられ、どちらの価値観にも属しきれない人々にとっては、居心地の悪いことだろう。
そんな中で、自分の居場所や生き甲斐を求めたり(時には間違った方法を選んでしまっても)、他の場所に憧れをもったりというのは当然かもしれない。

この作品に出てくる人々も、決して褒められる人ばかりではないが、一人一人は、それぞれの方法で自分を正当化し、また、自分が安心できる場所、満足できる場所を求めている。
そんな彼らに降ってくる災難の数々。
一歩間違えると、めちゃくちゃ重い話になりそうなところを、奥田作品らしく、どこかユーモアがあり、結末はともかく、愛すべき登場人物たちとして描かれている。

無理

無理

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/09/29
  • メディア: 単行本



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コメント 5

Sanchai

こんにちは。始めまして。

『最悪』や『無理』といった作品は、登場人物をギリギリの極限状態にまで追い込んでおいて、そこから事態をちょっとだけ好転させて少しだけハッピーエンド的な終わり方をさせますね。人間臭さというのは、そういうギリギリのところで垣間見える人間性が上手く描かれているからかなと思います。
by Sanchai (2010-08-11 23:19) 

macaron

こんにちは(^^)

何の関連もなかった登場人物たちが最後はつながっていくところが
面白かったです。
救いようのないラストでタイトルの「無理」の意味がわかったような
気がしました。
by macaron (2010-08-12 07:01) 

せん

Sanchaiさん、nice! & コメントありがとうございます。

『最悪』も、こういう感じなんですね。
実はまだ読んでないもので……
読みたい本リストに追加したいと思います。
"少しだけ"ハッピーエンドというところがポイントですね。
by せん (2010-08-12 13:12) 

せん

macaronさん、いつも nice! & コメントありがとうございます。

同じまちに住む人々、というところから、最後にちゃんとつながっていく辺り、さすがですよね。
救いようのない、それでも、それぞれの登場人物にとって最悪とは言い切れないラストが、私は結構すきでした。
by せん (2010-08-12 13:14) 

せん

rezareさん、nice! ありがとうございました。
by せん (2010-08-13 16:39) 

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